「最も安いRyzenマザボ」で終わらせるには惜しい、その本当の価値。
Ryzenマザーボードといえば、X670やB550といった高機能チップセットが注目を集めがちです。しかし、「とにかく安くRyzenを使いたい」「セカンドPCを自作したい」そんなニーズに静かに応え続けてきたのが、A320チップセットです。
エントリークラスながら、実はSSDやメモリ構成次第で意外なポテンシャルを発揮することも。中古市場で数千円で手に入る今だからこそ、あらためてその価値を見直すべき時期かもしれません。
この記事では、そんなA320の機能や歴史を丁寧にひも解きながら、他のチップセットとの違いや選び方も徹底解説していきます。
A320とは?
A320チップセットは、AMDが第1世代Ryzenと同時に2017年にリリースしたエントリークラスのマザーボード用チップセットです。コストを抑えつつ、基本的な機能を提供することを目的に設計されており、B350やX370といった上位チップセットと比較すると機能は制限されていますが、日常的なPC用途には十分な性能を持ちます。
初期はRyzen 1000シリーズ向けでしたが、BIOSアップデートを行うことでRyzen 3000シリーズまで対応できるマザーボードも存在します(一部例外あり)。ただし、Ryzen 5000シリーズへの正式対応は原則非対応である点に注意が必要です。
A320のスペックと主な特徴
A320チップセットの構成イメージ
※ オーバークロックに対応しないため、VRM周りの設計も簡略化されているモデルが多い点に注意。

項目 | 内容 |
---|---|
発売年 | 2017年 |
対応ソケット | AM4 |
PCIeレーン数(チップセット経由) | PCIe 2.0 x4(CPU直結はPCIe 3.0) |
USBポート構成 | 最大USB 3.1 Gen1 ×2、USB 2.0 ×6 |
SATAポート数 | 最大4ポート |
NVMeサポート | 対応(CPU直結のM.2スロット) |
オーバークロック | 非対応 |
マルチGPU(CrossFire/SLI) | 非対応 |
TDP(チップセット) | 約4.8W |
特徴ポイント
- オーバークロック非対応:Ryzen CPUのOCにはB350以上が必要。
- コスト重視設計:必要最低限のI/Oと機能。
- 小型フォームファクタに最適:MicroATXやMini-ITXが多い。
CPUとGPUがチップセットを通さない理由とは?
CPUとGPU(グラフィックボード)は、チップセットを経由せず、CPUから直接PCI Express接続される構造になっています。
この設計には以下のような理由があります。
- レイテンシ(遅延)の最小化
GPUは1秒間に何十〜何百フレームの映像を処理するため、通信経路が長くなると遅延やパフォーマンスの低下に直結します。CPU直結にすることで最も短く・高速な経路を確保できます。 - 帯域幅の最大化
チップセット経由のPCIeレーンはA320では「PCIe 2.0 x4」と狭帯域なのに対し、CPU直結のPCIeは「PCIe 3.0 x16」など広帯域です。高速なGPUやNVMe SSDの性能を最大限に発揮するには、CPU直結が必須となります。 - I/O分担設計
AM4プラットフォームでは、CPU側が重要な高速I/O(GPU、NVMe、メモリ)を担当し、チップセットは補助的なI/O(USBやSATAなど)を処理するという分業が基本です。
この構造はA320だけの仕様なの?
いいえ、この「GPUやNVMe SSDはCPUに直接接続される」構造は、A320チップセットに特有のものではありません。B350やX370、さらにはB550・X570といった後継チップセットでも同様に、高帯域なデバイスは基本的にCPU直結となる設計です。
つまりこれは、AM4プラットフォーム共通のアーキテクチャ設計思想であり、チップセットのグレードに関係なく適用されています。
他チップセットとの比較
チップセット | オーバークロック | PCIe世代 | USB機能 | マルチGPU | 対応世代 |
---|---|---|---|---|---|
X370 | ○ | 3.0 | 3.1 Gen2対応あり | CrossFire/SLI | Ryzen 1000〜3000 |
B350 | ○ | 3.0 | USB 3.1 Gen1 | CrossFire | Ryzen 1000〜3000 |
A320 | × | 2.0(チップセット) | USB 3.1 Gen1まで | × | Ryzen 1000〜3000(条件付き) |
マザーボードの選び方と注意点
選び方のポイント
- 搭載CPUに注意
Ryzen 5000番台は非対応の場合が多いため、Ryzen 3 3200GやRyzen 5 2600など、第1〜第3世代が現実的。 - メモリスロットは2本が基本
メモリ拡張性は限定的。 - ストレージ構成も要確認
SATAは最大4ポート、NVMeは1本までが一般的。 - ファームウェア更新必須
Ryzen 3000系を使う場合はBIOSアップデートが必要なことも。
どんな人におすすめか?
タイプ | 向いている理由 |
---|---|
初心者 | コスト重視でRyzen環境を組める。 |
セカンドPC用途 | 軽作業・事務作業・リビングPCに最適。 |
小型PC志向 | MicroATX/ITXで省スペース構成が組みやすい。 |
一方で、以下のような方には不向きです
- オーバークロックをしたい
- Ryzen 5000シリーズを使いたい
- ゲーミング向けの高負荷環境を想定している
まとめ
A320チップセットは、価格を抑えつつRyzen環境を導入したいユーザー向けに最適なソリューションです。機能面では制限がありますが、一般的な用途には十分な性能を持ち、特に中古市場ではコストパフォーマンスに優れた選択肢となっています。